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2019.02.08

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「劇場版デジモンアドベンチャー(仮題)」公式サイト

『デジモンアドベンチャー』八神太一役の声優・藤田淑子さんが昨年末亡くなられ、七七日も近い立春の今日、改めて藤田さんへの御礼と送辞を書かせていただく。
私が初めて藤田さんご本人にお会いしたのは、今から35年ほど前の録音スタジオ・タバックであった。 そのころまだデスクワークだった私は、お使いとして、タバックに届け物をしたのだ。 1スタと呼ばれる録音スタジオの扉に寄りかかっている立ち姿の美しい人がいた。あまりにスラッとしてカッコイイその美女が、お声だけでしか知らなかった藤田淑子さんその人本人だった。 古い名画でハイヒールを手に持ち砂漠を歩いていく往年の美人女優・マレーネ・ディートリッヒみたいだ、と感じたことを覚えている。 社に戻り興奮して話す私にベテランのプロデューサーが尋ねた。 「トコ、元気だった? 」『狼少年ケン』のころからプロデューサーを務める籏野義文(故人)氏だった。16歳のころの藤田さんを知っているベテランPは「トコ」という愛称で、彼女のことを呼んだ。 その後、『ドラゴンクエスト・ダイの大冒険』の高見義雄(故人)Pから、藤田さんは弊社の作品ではオーディションを受けない、所謂、「決め打ち」の役者さんの一人であることを教えられた。長寿番組だった『一休さん』他多数の番組でお世話になった役者さんたちへの東映の敬意のあらわれである。 『デジモンアドベンチャー』という番組を立ち上げる際に、私も慣例にのっとり、主役の八神太一役は「決め打ち」で藤田さんにお願いし、彼女の声を頭に浮かべながら他のレギュラー陣のオーディションを進めていった。 数年前、『デジモンアドベンチャー tri.』を始める事になった若いプロデューサーたちも当然、彼女にお声がけした。だが既に病魔と闘っていた彼女のお返事は辞退だった。事務所もご本人との約束で病名を伝えることはなかった。個人情報の中でも最もデリケートに扱わなければならない事柄だからである。 それでも若いプロデューサーたちは前へ進まなければならない。 声優さんの交代に賛否両論あがることは容易に想像できるし、批判されても藤田さんの病気を公表することはできないのである。「仕事上知りえた秘密を他に漏らしてはならない」というプロデューサー業の辛い側面を経験し、よく耐えたと思う。立春の今日、彼らの心の負担を軽くしてあげたいという一心で筆を執った。 薬の副作用と闘わざるをえない彼女は、一人で完結できる仕事、例えばナレーションやゲームの音声収録などの仕事に絞っていかれた。皆で掛け合うドラマの収録では、いつ、誰に、どういう迷惑をかけるかもしれないという、藤田さんの慮り、プロの矜持(きょうじ)として捉えていただきたいと思う。 2年前、2017年の1月、藤田さんがマネージャーと一緒に弊社にいらっしゃった。 「仕事をお断りして申し訳なかった」と仰るのである。「こちらこそ~」と私が話そうとしたとき、すかさず藤田さんは「若い人たち、頑張ってるじゃない?」「楽しみにしてるのよ」「東映さんでは、歴代の鬼太郎もその都度代わってるんだから気にしないで」と言葉を続けられた。 これが、私が最後に聞いた藤田淑子さんの言葉である。

立春とは旧暦では新しい年が始まる日である。
弔辞ではなく、あえて送辞にさせていただいたのは、新天地で、先に逝かれた番組関係者たちと再会し、新作品に「決め打ち」で出演してらっしゃるだろう、と想像したからである。卒業式に在校生代表として贈る「送辞」のつもりだ。「答辞」は心を澄まして聴くことにしたい。

『デジモンアドベンチャー』ファンの皆様、新作に携わるキャスト・スタッフの皆、藤田さんの言葉を胸に刻み、前に進みましょう。

立春大吉  文責 関弘美

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